ゲシュタルト療法をファシリテートする、心理療法の専門家「ファシリテーター」がワークショップの雰囲気やセッションの内容などに触れるブログを紹介しています

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ファシリテーター:岡本 綾子

岡本 綾子

2010年度GNJトレーニングコース修了。 2012年度GNJファシリテーター養成コース修了。 Gestalt Awareness Practice Study Group Japan 2017-2019修了。 「身体と心の繋がり」に興味を持つ中で、ゲシュタルト療法に出会う。

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「しげさんに語る」のこと(2025年7月・JAGTワークショップ大会)

2025年9月26日 21:27

去る7月、日本ゲシュタルト療法学会の「2025ワークショップ大会」が、東京・代々木オリンピックセンターで開催された。(大会長:GNJスタッフの中山史さん・岡本太郎さん。)大会プログラムの一環として、私は史さんと2人で、「しげさんに語る」というワークショップのコマを担当することになった。

このワークショップの趣旨は、GNJスタッフとして長く活動し、2023年に逝去された前田茂則さん(しげさん)を、ゲシュタルトアプローチで偲ぶこと。将棋や酒を愛し、詩吟をたしなみ、「一期一会」を座右の銘としたしげさん。ポーラを日本に紹介した立役者でもあり、何よりも「気づき」を大切にした方だった。

事前に、しげさんがかつてGNJのニュースレターやブログに書かれた文章を集めて、アルバムを作成。準備しながら、ユーモアあふれるしげさんの文章が懐かしい。会場には思い出の写真も飾った。

ワークショップには8名がご参加。そのうち半数が、「しげさんと直接会ったことがない」とのこと。てっきり、しげさんを旧知の方だけが興味を持ってくださると思っていたので、少し意外だった。しかし振り返ってみると、この参加者構成こそが、この会に広がりや深みをもたらしてくれたと思う。

チェックインの後、まずは秘蔵の(!)しげさんの動画を鑑賞。これは2019年伊豆大島での「伝説のスーパービジョン合宿」の夜に撮影されたもの。オリンピックセンターのエアコンがうるさく、肝心のしげさんの声がよく聞こえない。猛暑の中、一時エアコンを切って、PCからの音声に全員で耳を澄ませた。

「気づきこそすべて。気づけるようになるために、自己をたえずトレーニングする」。ファシリテーター自身が、今ここに気づける己を築いていくという作業が必要だと、動画の中の茂さんは説く。「これは僕の遺言です(笑)」との発言もあり、動画の中の私たちは笑っているが、いま見ると胸がきゅっとなる。

動画を見た後、当初の予定プログラムとしては、一人ひとりがしげさんに語りかける時間を持つことを考えていた。しかし、しげさんを直接知らない人も多い中、それは少々難しい。自然な流れで、それぞれが「しげさんの思い出や印象」、「お世話になった方との別れの体験」などをシェアしあう時間に。予定したプログラム通りにならないことで、かえって場が深まったという印象を持った。これぞゲシュタルトの醍醐味か。しげさんに「どうだ、まいったか!(笑)」と言われているようだ。

皆さんと時間を過ごすうちに、しげさんが一人ひとりと我―汝の関係で接してくださっていたことを、改めて思い返した。自分だけでなく、皆さんにそうした態度で接しておられたのだと気づいた。「私の前にいるしげさん」という一対一の関係で捉えていた姿に、「皆の中のしげさん」「社会の中で生きていたしげさん」「86年間のしげさんの生涯」という視点が加わる。自分の中のしげさん像がより立体的になり、ゲシュタルトが更新されたように感じた。

最後は、歌詞カードを手に、茂さんの十八番(?)、「ダンチョネ節」を皆で合唱。動画の中のしげさんは生前と何も変わらず、気持ちよく歌っている。またいつでも会えるような気がする一方で、しげさんの物理的な存在がない違和感にも話が及び、寂しさを共有する場面もあった。

ワークショップの終わりに、私の中に一つの問いが生まれた。
「もし今、しげさんと再会したらどうなんだろう?」

もらった言葉や体験を胸に、生きている者はまだ歩いていかなくてはならない。
これからどんなふうに歩いたら、しげさんとの再会を喜べる人生になるのだろうか。

身体に緊張感がある。背筋が伸びる。
少し、厳かな気分になった。