変容の逆説的理論
ゲシュタルト療法はその背景に四つの哲学がある。この哲学の意味を理解しないとゲシュタルトは表面的なものになってしまう。
まずは現象学の「今-ここ」「ありのままに現象をみる」という哲学は、様々なカウンセリングに取り入れられるようになってきた。
そして実存主義は「孤独、不安」「人生の不条理」から逃げるのでなく受け入れる人生の選択をせまる。
我-汝は、「我-それ」の関係から「我-汝」の関係へ、という提唱を世界のセラピストがとりいれるようになっている。
余談であるが、カール・ロジャーズは、オウム返し、傾聴、共感だと日本では勘違いされているが、本人はそのように言われることを嫌っていた。彼自身は「グロリアと3人のセラピスト」の中で、私が関わったのは我-汝てあると述べている。
四番目の「変容の逆説的理論」はゲシュタルトの独自な哲学である。もしあなたが本当に変わりたいなら、今のあなたのままでいること、とアーノルド・バイザーは言う。私たちは今の自分を否定して新しい自分になることは出来ない。という哲学である。
このバイザーの半生の記録映像を見る機会を得た。バイザー医師は若い時に朝鮮戦争に行きポリオに罹ってしまった。
有望なテニスプレーヤーで若手のホープであった彼の人生は絶望の縁に立たされた。自力で呼吸が出来なくなった彼は鉄の人工呼吸器に全身を埋めるしかなかった。どんなに元の有能な人間に戻ろうとしても全身は麻痺して身動きできない。最後にたどり着いたのが「今の自分を受け入れる」ことであったのだ。その時に大きな変化が起きたことに気づいた。